お客さまのより豊かなライフスタイルの実現に貢献するため、人の想いや感性に触れ合える場所づくりのほか、各地域の文化や伝統、名産品をご紹介するなど人と地域をつなぐ取り組みを推進しています。
三越伊勢丹グループでは、店舗のある地域だけでなく、商品調達で縁をもった地域とも積極的にかかわり、行政や産業界などと協働した地域に根ざした取り組みを行っています。
百貨店店舗では、二酸化炭素や食品ロス、気候変動が与える農業への影響などの社会的な課題に、経営だけでなく従業員も主体的に行動できる体制を整備しています。さらに、お客さまに対しては、商品購入やイベントへのご参加という形で共創できる仕組みを整えています。
2020年には、全国の信用金庫のビジネスマッチングサイト「よい仕事おこしネットワーク」との業務提携により、百貨店のノウハウを活用して、地域社会のお困りごとを解決していく取り組みを開始いたしました。
今後も既存の方法にとらわれず、常に新しい視点をもって地域へ貢献してまいります。
当社グループでは、包装資材の総量抑制を通じたCO2削減に取り組んでいます。
(株)新潟三越伊勢丹では、最低限必要な包装資材のプラスチックも、環境配慮素材に転換しています。その一環として、2021年4月からライスレジン製プラスチックをギフト包装材に使用しています。
ライスレジンとは、食品に適さない古米、砕米、削米などを加工したバイオマスプラスチックです。国内有数の米どころ、新潟ならではの素材です。地域特性を活かすとともに、食品に適さない米を使用するので食品ロスの解決にもなります。この事業を進めるにあたりパートナーとなったのが、バイオマスプラスチック開発技術をもつ、(株)バイオマスレジン南魚沼です。
包装材での活用に加えて、ライスレジンの認知度向上を図ることで、ステークホルダーとともに環境と地域貢献について考える機会を創出しています。
お客さまに対しては、新潟伊勢丹内の新潟の逸品を紹介する「NIIGATA越品コーナー」において、ライスレジンが使用された子ども用玩具、カトラリーや食器などの商品を展示・販売しています。店内の喫茶やレストランの一部の店舗では、ライスレジンを使用した箸・スプーン・ストローを導入し、実際にお使いいただいています。従業員に対しては、従業員食堂にてライスレジン使用のカトラリーを導入しています。
2021年9月に(株)新潟三越伊勢丹は、(株)バイオマスレジン南魚沼とライスレジンの更なる使用拡大に向け、販売代理店契約と物販基本契約を締結しました。今後もライスレジンの取り組みを拡充していきます。
(株)岩田屋三越では、農作物の育成や収穫を通して、従業員が主体的に地域の現状や社会課題を知ることを目的とした「岩田屋三越ファーム」プロジェクトを実施しています。
このプロジェクトは、2017年度に佐賀県唐津市「大浦の棚田」で米作りをしたことから始まります。その後、2018年度には、福岡県筑後市でお茶の栽培を、福岡三越屋上で屋上養蜂を、2020年度には熊本県菊池市で栗の栽培を開始し、同じ2020年度には銘茶のふるさと、福岡県八女市でもお茶の栽培を開始しました。育てる農作物の種類や作業する場所が増えることは、多角的な社会課題の発見につながっています。
最近は気候変動に伴い、九州地方は災害に見舞われることが増えています。その影響で、米作りは2020年度より地元、福岡県朝倉郡東峰村竹地区に生産の場を移しました。竹地区の棚田は、蛍の生息地の名所です。しかし、2017年の九州北部豪雨による水害で壊滅的な被害をうけ、蛍の姿はほとんど見ることができなくなりました。竹地区の棚田の復活と維持の一助となるため、2020年度から棚田米作りを開始。蛍が戻る日に向けて活動を続けています。
収穫した農作物は、商品として店頭で販売しています。中には、お中元・お歳暮のギフトになるものもあります。手間暇かけて農作物を育てることは、従業員の意識を変えています。また、商品の販売時にその体験をお客さまにお伝えすることで、農業を中心とした環境問題への関心を高めていただいています。
(株)岩田屋三越では今後もこの取り組みを強化してまいります。
私たち4人は、ファームプロジェクトメンバーの一員として、説明にあるように、農作物の育成から商品化・販売まですべての工程に参加しています。実際の作業、特に農作業は想像以上に体力的にきついです。その体験だけでも収穫ですが、苦労して作ったものをお客さまの手に届ける喜びは地域により強い思いを抱くきっかけをつくってくれました。
近年は気候変動に伴い、九州は毎年のように災害に見舞われています。同じ福岡に住んでいながら、それまでニュース上の出来事のように感じていたことも、このプロジェクトの活動を進めていくうちに各地域の被災を、自分事として捉えるようになりました。生産者の皆さまの苦労がわかるからこそ、募金活動やボランティアだけでなく、継続的な復興支援のために米作りの場を移転した理由もそこにあります。
当初はモノづくりの過程を知る、という観点で始めたプロジェクトですが、ともに作業をすることでできた地域の方々との絆を通じて、(株)岩田屋三越が地元の企業であるからこそ、より福岡の活性化に関わりたいと、その実施目的が次のステージに上がったように思います。
2022年1月に「福岡県ふるさと物産展」を開催します。そこでは、作り手を取り巻く環境、後継者問題も含めて、プロジェクトを紹介します。農家の方をお招きして、お客さまと接する機会を設け、農家の方が、商品開発のタネを発見できるお手伝いができればと考えております。この機会を通じ、私たちがプロジェクトで学んだことを、生産者の皆さまとお客さまにお伝えし、「食を通したつながりの輪」を広げることで「地域貢献」を目指していきたいと思います。
※在籍所属は2021年11月時点のものです。
2020年4月7日、(株)三越伊勢丹法人事業部(現・ビジネスソリューション事業部)は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で苦境が続く中小企業の支援につなげるため、全国の信用金庫のビジネスマッチングサイト「よい仕事おこしネットワーク」と業務提携を行いました。
(株)三越伊勢丹の「商品化のノウハウや販路」と「全国各地に拠点をもつ信用金庫のネットワーク」というそれぞれの強みを掛け合わせることで、新たな地域産物の発掘・販路拡大や国内の付加価値の高いモノづくり拡大を目指しています。
2019年10月に始まった「三越伊勢丹ふるさと納税」は、こだわりの返礼品がたいへんご好評をいただいています。
全国での店舗展開やこれまでの商品調達で培ったネットワークを背景に、百貨店バイヤーの目を通して選ばれたこだわりの特産品をふるさと納税を通じてご紹介しております。その中には、まだまだ世の中に広まっていない銘品もあり、モノを通じて知らなかった国内の自治体を応援するきっかけづくりをしています。
現在参加表明している自治体数は114、公開済みの自治体は89あります(2021年1月現在)。
また新型コロナウイルス感染症拡大で苦境に立つ生産者を応援する取り組みや、災害支援の取り組みも行っております。
※在籍所属は2021年11月時点のものです。
私どもの事業部は主に法人のお客さま(クライアント)の企業価値の向上に向け、通常、百貨店の店頭にはないようなモノ、コトを含めてBtoBの事業を展開しております。
その中で、全国の信用金庫が連携し推進しているビジネスマッチングサイト「よい仕事おこしネットワーク」と数年来のお取り組みをしてまいりました。信用金庫の皆さまは、地域に根差した企業を主に金融面で支えています。歴史的にも当社グループは地域の産業や職人の技などを百貨店という「場」で支援してきており、その意味では、実は地域社会における両者の役割が似ていると感じました。
そこで、コロナ禍で大変厳しい状況にある地域の企業の皆さまを支援するため、両者が提携し、手を携えて地域の産業を持続的に発展させる取り組みをスタートすることにいたしました。
また、本年度に新設した「ビジネスソリューション事業部」では、多くの企業が抱える課題、社会課題の解決にも積極的に取り組むこととし、「サステナビリティ推進」を軸に、「従来の百貨店ではできなかったこと」も含めて、様々な新規取り組みにも挑戦していきます。
なかでも「地方創生ソリューション」は重点取り組みと位置づけており、今後多くの自治体や企業の皆さまとパートナーシップを組みたいと考えております。
具体的には、百貨店で培ったノウハウはもちろん、その他、事業としてふるさと納税や旅行、ECなど、当社グループには様々なリソースがあり、これらをフル活用することで、まだ全国には知られていない隠れた銘品や優れた技術の掘り起こし、商品化、販路の拡大などにより、「地方創生」に寄与できると考えております。
さらに、当社グループの強みでもある「安心・安全」ののれんの信頼と、デザインの力を掛け合わせることで、地域産業のリブランディング等にも取り組んでまいります。
こうした地域への貢献、地域との協創は、創業以来、当社グループが担ってきた社会的な責任でもあり、地域産業のレジリエンスな基盤づくり(SDGs⑨)や、住み続けられるまちづくり(SDGs⑪)の側面からも、当社グループの存在意義そのものと言えます。
今後は、「人と時代をつなぐ三越伊勢丹グループ」として、グループ内のリソース活用はもとより、外部の様々なパートナーも含めて、持続可能な地域社会の実現に向けた取り組みを拡大していきます。
三越伊勢丹グループでは、公共性の高い百貨店であることを活かし、募金活動のほか、商品調達力や販売スキルなど商売を通じて得た知見を活用した社会貢献活動をしています。
ここでは、新型コロナウイルス感染症に影響を受けたビジネスパートナーのために実施した活動をご紹介します。
「#みんなでマスク」は、当社グループがお取組先や生産者の皆さまをつないでマスクの製造を依頼、すべての収益は日本赤十字社(医療関係支援)に寄付をするチャリティ企画です。
様々な所属の従業員が「今できること」、「今やらなければいけないこと」は何かを考え、緊急事態宣言下の休業時からこのプロジェクトをスタートしました。
各自が持つ社内外のネットワークを活かして交渉し、お取組先、デザイナー、今回のメインビジュアル作成のイラストレーター長場 雄さんや、タイトルとステートメント作成のコピーライター後藤 国弘さんなどが、「この状況で何か力になりたい」と快く賛同、協力してくださいました。
本企画は、新型コロナウイルスの影響により、仕事が減少した国内の縫製工場や、医療関係者への支援を目的としていますが、同時に、ファッション業界の現状をポジティブな内容で発信し、「(自宅にいても)ファッションを楽しみたい!」というお客さまのマインドに働きかけることで、賛同の環を拡大することができました。
お取組先から素材(残反やデットストック生地)をご提供いただき、その生地で国内縫製工場各社にマスクの製造を委託、すべての生地のホルマリン検査を実施し、衛生面など品質管理もしながら、2020年6月に三越伊勢丹オンラインストア限定で発売しました。「#みんなでマスク」としてSNSでも拡散、お取組先やお客さまからの投稿も数多く頂戴し、ご好評のうちに約12,000枚を完売、3,112,727円を寄付することができました。
伊勢丹新宿本店本館3階センターパーク/ザ・ステージ#3では、マスクケースの販売だけでなく、今回ご協力くださったブランドの皆さまからのメッセージとともにマスクの展示やメッセージ動画の放映も行いました。高いファッション性だけでなく、お客さまやデザイナーの皆さま、生産者の皆さま、そして当社グループが「#みんなでマスク」を通じて、想いを「つなぐ」ことができたプロジェクトとなりました。
緊急事態宣言の発出(2020年4月~5月)は、小売業だけでなく、様々な業態に影響を及ぼしました。
地域に元気を取り戻すため、宣言終了後、(株)静岡伊勢丹では、これまでのテイクアウト販売で培ったノウハウ(内容・価格)と場所や販売業務を、近隣の個人経営の飲食店7店に提供しました。
メニューがふえたことは、近隣の官公庁やオフィスにお勤めの従来からのお客さまはもちろん、「お弁当を買うことで少しでも役に立ちたい」というお客さまに好評で、連日完売しました。
この結果を受け、(株)静岡伊勢丹では地域社会への貢献により力を入れることになりました。2020年度より、静岡県と山梨県が共同で行っている「バイ・ふじのくに」に参画しています。
(株)三越伊勢丹では伊勢丹店舗で2007年より、三越店舗では2014年より、「ピンクリボンキャンペーン」を実施しています。
お客さま、従業員共に多くの女性に支えられている三越伊勢丹グループでは、2016年より本活動をグループ全体に拡大しました。活動開始当初よりご協力いただいている認定NPO法人「乳房健康研究会」をはじめ、各地域の活動団体と乳がんの早期発見、早期治療の啓発活動に取り組んでいます。
2020年度も乳がん月間である10月に、グループ全体で「ピンクリボンキャンペーン」を実施。早期発見・治療を呼びかける店内放送や店頭でのリーフレットのお渡し、また「ピンクリボンバッジ」などによる寄付活動など、お客さまへの啓発活動を行いました。皆さまのご協力の結果、2020年度の寄付金額は、合計1,316,596円(13店舗)となりました。
この寄付金は、店舗の所在地域で活動する各団体へ寄付され、乳がんの早期発見に向けた様々な啓発活動に役立てられます。
2020年6月より、エムアイカードのポイント交換サイト上で日本赤十字社への寄付ができるようになりました。集まりました寄付は、新型コロナウイルス感染症対策を含む、日本赤十字社の活動全般に役立てられます。
また、エムアイカード公式ホームページでは、お買物をしながら医療従事者支援につながる取り組みも併せてご紹介しています。
旧・(株)伊勢丹の創業家が、1963年に創立し、後に公益認定を受けた、公益財団法人伊勢丹奨学会が運営している奨学金制度です。
都内および近隣県にある7大学の商業、経済および経営関係学部に在学する、修学可能な心身で、学力優秀でありながら経済的理由により修学困難な学生に対して奨学金を給付しています。
期間 | タイトル | 金額(千円) | 実施店舗 | 寄付先 |
---|---|---|---|---|
6月〜9月 | #みんなでマスク | 3,113 | オンライン | 日本赤十字社 |
7月〜3月 | 有料紙袋販売枚数に応じた寄付 | 6,710 | 百貨店各店舗 | WWFジャパン |
10月 | ピンクリボンキャンペーン (2007年~) |
1,317 | 三越伊勢丹首都圏店舗9店舗・函館丸井今井・新潟伊勢丹・仙台三越・静岡伊勢丹・高松三越・松山三越・岩田屋本店・岩田屋久留米店・福岡三越 | 認定NPO法人「乳房健康研究会」、「ピンクリボンかがわ県協議会」、「ピンクリボンえひめ」、認定NPO法人「ハッピーマンマ」 |
年間 | 動物保護 アクセサリー販売(2014年~) | 989 | イセタンオンライン | 一般財団法人「クリステル・ヴィ・アンサンブル」 |
エムアイカード 1ポイント=1円としてお客さまから寄附。 (2016年~) |
1,022 | エムアイカードホームページ | 東京国立博物館、京都国立博物館、国立科学博物館、鎮守の森プロジェクト、名古屋城 | |
1,788 | 日本赤十字社 | |||
エムアイ友の会 エムアイ友の会の収益から、(株)エムアイ友の会として一定の金額を寄付 |
1,621 | グループ店舗友の会カウンター | 公益財団法人Chance for Children (2018年10月~) |
|
チャリティ合計 | 16,560 | - | - | |
年間 | 新型コロナウイルス感染症対応 | 4,518 | グループ店舗 | 日本赤十字社 |
54 | 広島三越 | 広島県 | ||
2020年度 店舗募金合計 | 4,572 |
海外店 | 金額(千円) |
---|---|
シンガポール伊勢丹 | 1,404 |
米国三越 | 153 |
ローマ三越 | 129 |
上海梅龍鎮伊勢丹 | 8,776 |
天津伊勢丹・天津濱海新区伊勢丹 | 8,231 |
成都伊勢丹 | 6,767 |
バンコク伊勢丹 | 2,332 |
2020年度 海外店寄付金合計 | 27,792 |
※2020.12現在のレートで円換算
三越伊勢丹グループの前身である三越は、1907年に新美術部を創設します。知識がないと購入しづらいイメージのある美術品を百貨店が紹介することで、誰もが安心して購入できる機会を提供し、芸術と文化の普及を図りました。
美術部の歴史を振り返ると、日本美術の歴史を彩る数々の巨匠が作品を発表してきたことがわかります。横山大観、東山魁夷、平山郁夫、濱田庄司、バーナード・リーチなど、名をあげるだけで日本美術史を語れるほどです。こうした作家の展覧会を開催したことは、三越の美術の名を高め、作家にとって憧れの場となっていきました。今後の活躍が期待される若手作家にも、グループによる発表の場を提供することで、芸術と文化を未来につないでいます。
現在でもその精神を受け継ぎ、文化に関心のある誰もがそのすばらしさを体感できる催事を継続的に開催しています。
また、国立博物館・美術館と協業し、美術作品のすばらしさの普及に努めております。
ここでは、それらの活動をご紹介します。
当社グループの文化展の歴史は、1904年に三越日本橋本店で開催された「光琳遺品展覧会」に始まります。この展覧会は、モノを売るだけにとどまらず、日本の文化、特に芸術を誰もが自由に楽しむことを近代百貨店の使命のひとつに据えた、日本独自の文化の創造を目指したものでした。
現在、当社グループでは、「春の院展」と「日本伝統工芸展」を中心に文化展を実施しています。「春の院展」は、1945年11月に三越日本橋本店にて開催された「第一回日本美術院小品展」に始まり、途中、現在の名称に代わり、2021年には76回を迎えました。本年度は、三越日本橋本店を皮切りに、仙台三越、福岡三越、新潟伊勢丹で開催しました(開催会場は年によってかわります)。一方、「日本伝統工芸展」は、1954年に第1回を三越日本橋本店で開催して以来、2021年には68回を迎え、三越日本橋本店を皮切りに、名古屋栄三越、仙台三越、福岡三越で開催しました。日本工芸会の諸部会の展覧会(陶芸・染織・漆芸・木竹工・人形・諸工芸のみ)もまた、各店で開催されました。
年度から3D撮影した作品をオンラインでご覧いただけるようになり、店頭に足を運びづらい方にも鑑賞の機会を提供できるようになりました。
このような美術展や文化展だけでなく、外国の文化を紹介する外国展(イギリス・フランス・イタリアなど)、日本各地の名品を地域ごとに紹介する物産展(北海道、京都、鹿児島、沖縄など)を開催しております。
日本が世界に誇る文化財を守り、未来へと守り継ぐことを目的に、パッケージに国立博物館・美術館の所蔵作品を使用した日本の美意識溢れる特別なギフトを、中元、歳暮の商品として販売しています。商品代金の一部は、その作品を所蔵している博物館・美術館の運営に役立てられます。
コラボレーション先:
● 東京国立博物館(2016年~)
● 京都・奈良・九州国立博物館(2018年~)
● 東京国立近代美術館(2020年~)
※在籍所属は2021年11月時点のものです。
三越の黎明期は、明治末から大正時代と重なります。経済的な発展もあり、西洋文化が広く輸入された時代です。時代の風向きは西洋文化一色になりそうなところ、日本らしい百貨店づくりのため、当時の三越は日本文化の再発見と振興にも取り組みました。その方向性を決めたのが、森鷗外を中心とした知識人による「流行会」です。三越が芸術文化を支援する礎をつくりました。
三越流行会の功績は、西洋文化を流行、趣味として発信すると同時に日本文化も振興したことです。例えば、婦人服や、紳士服の販売はまさに西洋文化の紹介ですが、その一方で、元禄文化を代表する尾形光琳に注目し、「光琳遺品展覧会」の開催、またその意匠の呉服への活用など、日本文化の紹介にも力を注ぎました。この取り組みは、一般の方が、美術品を鑑賞できる場所として百貨店が役割を担う文化展に結実します。
戦前は、人気を集めた巨匠作家によるグループ展が有名です。中でも、横山大観、竹内栖鳳らによる「淡交会」は、後に大観自身が東西の巨匠が集い切磋琢磨する良いものだったと回想するほど、画家たちが鎬を削る頂上決戦のような展覧会でした。
もう一つ「春虹会」をご紹介します。この展覧会には、上村松園が出品しています。私見ですが、華やかで女性的な色使いを強調した出品作に、数少ない東京での発表への作家の意気込みを感じます。
このように出品作品から、当時の最高峰の作家にとって、三越で作品を発表することが特別な意味を持っていたと感じます。美術館等の作品解説に「淡交会」や「春虹会」の名称を見つけると少し嬉しくなります。
第二次世界大戦の敗戦後、東京は焦土と化しました。日本人を復興に向けて力づけるため、連合国最高司令官総司令部は、日本画の展覧会開催を指示します。1945年11月に三越日本橋本店で開催された第一回日本美術院小品展です。三越が会場にえらばれたのは、これまで日本の美術に果たしてきた役割が評価されてのことと思います。この展覧会は、「春の院展」として受け継がれ今日に至っています。
1949年の法隆寺金堂火災をきっかけに日本美術の保護と継承に注目が集まり、1954年第一回無形文化財日本伝統工芸展が開催されます。本年で68回を数える本展で、入選作全約600点を一堂に鑑賞できるのは三越日本橋本店だけです。文化庁、日本工芸会等の主催者と三越が一体となり継続して開催し続けたことは戦後の文化振興において重要であったと思います。
両展覧会の開催は、文化勲章受章者や重要無形文化財保持者(人間国宝)など我が国が誇る作家の個展の開催につながりました。時代が変わっても美術画廊がお客さまに作品を紹介する場所であり続けたことは、日本の美術史においても重要な意味があると思います。
2020年3月、三越日本橋本店に、コンテンポラリーアートギャラリーがオープンしました。現代美術の領域に挑戦するプロジェクトです。オープニングは、日比野克彦氏の展覧会でした。1991年に伊勢丹で開催された氏の「Xデパートメント」を継承するもので、当時の出品作品も展示されました。コンテンポラリーアート界を代表する日比野氏が(株)三越伊勢丹という舞台で時間を超えて融合した展覧会を開催したことは、コンセプトを重視する現代美術の真骨頂となる意義あるものでした。
美術というのは定義があるようで、曖昧な部分も多いものです。時代がアートという価値を創って来たともいえると思います。時代が変化しても、作家と会話し、作品を理解し、お客さまと会話し、お客さまの価値観に合った提案をするという原点は変わらないと思います。作品を販売することで、その時代の美術史を創ることに貢献できる。百貨店の美術部にはそんな役割があると思っています。こうした活動が文化振興に貢献し、今後も当社グループのサステナビリティ活動の推進の一助となればと思います。
呉服店にルーツをもつ企業が統合してできた三越伊勢丹グループは、文化・芸術の振興と継承に長年力を注いできました。これは、百貨店がただモノを売る場所ではなく、その背景にある文化の紹介を通じて、新しい文化を創造する場であると考えているからです。
ここでは、新しい文化の担い手である、次世代の支援と育成についてご紹介します。
「三越伊勢丹・千住博日本画大賞」は日本画にスポットを当て、日本画に取り組むすべての人を対象とした公募のコンクールです。今後の美術界で活躍する作家を発掘し、広く発信していくことを目的としています。「日本画」と題しながら、従来の画材である岩絵具の使用を必須としない、新しい「日本画」に挑戦する賞です。2020年4月に初回を開催し、200点を越える応募がありました。千住博氏を審査委員長に迎え、厳正な審査を通過した20点は、横山大観、平山郁夫など日本画壇を代表する作家が作品を展覧した三越日本橋本店美術特選画廊にて展覧されました。
現在、国内外から注目を集める日本のマンガ・アニメーション・映画・ゲーム。これらは文化芸術基本法 第9条で「メディア芸術」として定義されています。
当社グループでは、これまで文化振興やクリエイター育成に取り組んできた実績を活かし、「三越伊勢丹メディア芸術」を新たに事業化しました。メディア芸術の優れた作品やクリエイターと協業し、様々な企画を実施しています。
2020年12月には、累計1,500万部を超える大ベストセラー小説を原作としたアニメーション「銀河英雄伝説 Die Neue These」とのコラボレーション企画を三越日本橋本店と三越伊勢丹オンラインストアで開催しました。2021年5月からは三越伊勢丹オンラインストアでも、メディア芸術の魅力やオリジナル企画を紹介しています。
「MITSUKOSHI×東京藝術大学 夏の芸術祭」は、お客さまに身近な環境でアートを感じていただくとともに、若手のアーティストに発表の場を提供する、次世代育成につながる取り組みです。2020年8月で6回目の開催となりました。
「I LOVE YOU」をテーマに、日本画・油画・彫刻・工芸・デザイン・建築・先端芸術表現・美術教育・文化財保存学の9部門の現役教授陣がご推薦の、多様性社会に生きるアーティストとして若き才能※が表現した作品をご紹介しました。
※40歳未満の大学院在学生および卒業生約90名
文化学園大学・文化学園大学短期大学部の学生を対象に、2021年7月に「第一回 ユニフォームデザイン画コンペティション」を開催しました。このコンペティションでは、「未来を叶えるサステナブルユニフォーム あなたのデザインが社会を変える!」をテーマに、ユニフォームを着る業種や、着る人の性別を問わない、未来に向けたユニフォームのデザインを募集しました(一人3デザインまで応募可)。1カ月と限られた応募期間にも関わらず、99名104デザインもの応募がありました。
今後も引き続き、創造力溢れる学生向けのコンペティションを開催する予定です。
コロナ禍により、国内外でデジタル化が一層進みました。
三越伊勢丹グループでも、進化するデジタル技術を使って新しい顧客体験の提供に取り組んでいます。2020年度には、店頭と同様の接客と、商品購入のできる「三越伊勢丹リモートショッピングアプリ(MIRS)」のほか、バーチャル・リアリティ(仮想現実、以降VR)※1の世界への参入も開始しました。VRにおいては、①仮想店舗(場所や時間にとらわれないオンライン上の店舗)の立ち上げや、その中での②デジタルウエア販売(百貨店の商品をデジタルデータにしてアバター※2用の着せ替え素材として販売)に挑戦しています。
ここでは、VRを活用したスマートフォン向けアプリ〈REV WORLDS/レヴワールズ〉を中心に当社グループのVRについて紹介します。
※1 コンピューターを用いて人工的な環境を作り出し、あたかもそこにいるかのように感じさせる仕組み。
※2 VR上において、自分の分身として表示されるキャラクター
2020年11月より、どこにいても、スタイリスト(販売員)による店頭と同様の接客を受け、店頭の商品を購入することができる「三越伊勢丹リモートショッピング(MIRS)」アプリを開始いたしました。伊勢丹新宿本店、三越日本橋本店、銀座店のほぼすべての商品をスマートフォンでご購入することができる当社グループオリジナルのアプリです。
百貨店の強みである接客は、実際に商品を手に取ることのできないお客さまの不安解消につながるため、オンラインショッピングにおいても強みとなると考えています。
オンライン上でスタイリストが接客する、実際のお買物に近いサービスを、2021年11月から開始しました。期間限定商品や少量生産の貴重な商品など、これまで来店が必要だった商品もご紹介でき、ご多忙な方、外出が難しい方へのユニバーサルなサービス提供が可能です。
今後もスムーズなお買物をオンラインで提供できるように、MIRSは進化を続けます。
松山三越デジタルサロンは、店内ではご紹介が難しいアイテムを、三越日本橋本店、三越銀座店とつながることでお客さまへお届けしています。
店舗のリニューアルで百貨店の面積は大幅に縮小となりましたが、「店舗にない商品はデジタルサロンが他の店舗からお取り寄せする」役割を担い、幅広いご要望の実現・ご相談ごとの解決に努めています。
お客さまご自身でオンラインショッピングができる時代において、リアルなサポートをご要望いただくのは、「ふだんから利用している店舗の誰が対応しているのかがわかる安心感」であると考え、お客さまのサポート役として最大限寄り添うことをモットーに取り組んでいます。
デジタルサロンではご要望のあった商品の接客のほか、定期的に店舗ではお取り扱いのないラグジュアリーブランド・アイテムのPOP UPを行い、実際にご覧いただきながらリモート接客を実施しています。
こうした首都圏店舗と地方店舗をリモートで結ぶ取り組みは、2021年10月に誕生した新潟伊勢丹「THE SALON」でも始まり、今後も拡大していく予定です。なお、(株)新潟三越伊勢丹では、このほかに新潟伊勢丹とサテライト店をリモートで結ぶ取り組みも実施しています。
三越伊勢丹グループは、24時間いつでもどこからでも仮想都市にアクセスできるアプリ「REV WORLDS(レヴワールズ)」を独自に開発しました。
このアプリを使用することで、お客さまは、VR上で、街並みを楽しめる他、仮想伊勢丹新宿本店でお買物ができます。友人と一緒に来店し、チャット機能を使ってコミュニケーションを楽しむなど、「人とのつながり」を体験しながら、街や店内で思わぬ商品との出会いや新しいきっかけを感じることができます。
2020年4月にはVR上で行う世界最大級の外部イベント「バーチャルマーケット4」に出店後、店内の催事とも連動し着実にお客さまを増やし、仮想店内の充実を図っております。
今後は、お客さまにとって最高の顧客体験を実現するため、(株)三越伊勢丹でショッピングだけはなく様々な施設やサービスを仮想都市内に盛り込んでいく予定です。
※在籍所属は2021年11月時点のものです。
これからの未来、人はインターネット上でもライフスタイルを求める。
初めてそう思ったのは、2008年のとあるIT企業の新作説明会です。それ以来、オンライン上で人と人がコミュニケーションをとることができる「仮想世界」をいつか自分でも実現したく、キャリアを重ねながら挑戦をしてきました。
百貨店業は、お客さまのライフスタイルに幅広くお役に立つことができる極めて稀な業種です。我々はモノを販売するだけではなく、コミュニケーションをとりながらお買物をお楽しみいただくことで、想い出という付加価値を創造しているのです。この「人と人のコミュニケーションのプロセス」こそが、付加価値を生み出す源泉となるものだと思います。
これらの付加価値は、オンラインでのお買物においても提供できるはずです。それを実現させるのがVRを活用した「仮想伊勢丹新宿店」です。一見VRといえば、IT系の仕事というイメージを持ちがちですが、三越創業300年、伊勢丹100年以上のノウハウがある(株)三越伊勢丹が参加することで、よりよいコミュニケーションの場を提供できるのではないかと考え、2019年度のイントラプレナー(社内起業制度)に挑戦し、2021年3月に仮想都市プラットフォーム「REV WORLDS」を立ち上げました。
現在のREV WORLDSは伊勢丹新宿本店とその周辺が舞台です。
2021年3月からはリアル店舗で実際に行われているイベントとも連動開催をしていきました。例えば、「ISETAN MAKE UP PARTY」(2021年3月)は化粧品と連動した催し物で、女子高校生やメイクに関心のある男性など、実際の店舗には入りづらさを感じられるお客さまがバーチャルにご来店になられました。
今、コロナ禍で外出を自粛される方が増えています。会いたい人に会って話がしたい、というコミュニケーションの本質がこれまで以上に求められているように思います。実際に、奥様と日ごろから百貨店に足を運んでくださっていた高齢者の方からVRの使い方のお問い合わせなどもあります。こうしたお問い合わせがあると、自分の想いが間違っていなかったと励みになります。
今後はリアルではできないことができるVRの良さや、リアルとバーチャルが連動した新しい体験を通じ、より多くのお客さまがオンライン空間上で豊かなライフスタイルをお楽しみいただけるよう、仮想の「都市」を開発していく取り組みを行っていきたいと思います。