(株)ワンデイワーク
代表取締役社長
飯島 芳之
(株)三越伊勢丹
営業本部 外商統括部 法人外商グループ 開発部
関 一成
飯島:
「ワンデイワーク」は、2019年に事業を開始してから徐々に利用者が増え、現在では約7万人の働き手に登録いただいています。サービスは首都圏中心でしたが、「地域の仕事を紹介してほしい」というお声をいただくことが増えていました。
そんななか、東北電力フロンティア(株)が東北圏で子育て世代の支援や地域の社会課題の解決につながる事業を行いたいと考えていることを知り、協業することになりました (「地域との共創」)。
関:
サービスを首都圏から地域に広げていくにあたり、違いや苦労されたことはありますか。
飯島:
最初にわかったことは、地域によって「雇用」に関する課題が少しずつ異なるということです。そのため、地域に密着して仕組みを構築していく必要があり、現地とのコミュニケーションや地域へどう溶け込んでいくかが重要です。昨今の状況では、我々自身が現地に出向いて活動するのは簡単ではありませんので、東北電力フロンティア(株)という地域に根差したパートナーがいることは大変心強いことでした。
関:
もともとワンデイワークは、事情があって働けない人と働ける環境をマッチングすることを目指したサービスですよね。どのようにして地域に寄り添っていったのでしょうか。
飯島:
ただマッチングするのではなく、生活とのバランスを保ちながら、自分らしく働ける環境をご紹介することを心掛けています。ワンデイワークのマッチングは、単日・短時間から就業できるのが特徴ですが、それが1日の労働力として終わってしまわないよう企業側には継続的に雇用していただく、働き手側にも継続的に就業していただけるように仕組み化していくことが重要です。
東北事業の準備をしていると、どうやって1日単位の雇用の仕組みを使ってよいかわからない、労働環境を整えるのが難しいといった悩みを持つ企業からのご相談がありました。例えばですが、交通事情は東京と各地域では全く異なるため、交通費の支給も地域に合わせた仕組みが必要です。そういった地域特性を細やかに把握し、システムに反映していくことで東北圏でもご利用いただける環境を構築してきました。
当初は、地域創生を起点にしたビジネスではありませんでしたが、より現場の事情に合わせて仕組みを構築することで、働き手と雇い手がWin-Winの関係となるような健全なマッチングが生まれ、結果的に地域の創生につながったと感じています。
関:
外商統括部では、2022年度より“可能性は無限大” のスローガンのもと、法人外商グループ開発部がプロジェクトマネージャーの役務を担い、当社グループのアセット(店舗、EC、人財など)を活用した「地方創生ソリューション」を強化しています。以前から、BtoBの部門として、地域の企業、お取組先、自治体とお取り組みしており、あたらしいビジネスの創出が、地域の活性化につながると考えています。
飯島さんが仰るように、首都圏にいる我々だけで地方を盛り立てていくのは難しいですから、私たちは、自治体や地元事業者と共創しながら持続可能な社会の構築に取り組んでいます。直近では、山口県山陽小野田市からガラス産業の振興・知名度向上を目的としたブランド化推進事業(「地域との共創」)を受託しました。
飯島:
百貨店を母体とする法人外商が、地方創生に取り組むというのは、人によっては意外に思われるかもしれませんが、社内外の反応はいかがでしたか。
関:
仰るとおり、受託にあたり、社内外から「なぜ百貨店が?」という声が少なからずありました。2021年度、(株)日本デザインセンターとの共同事業体で〈CLASS GLASS〉というガラスアートブランドを立ち上げました。2022年度は、商品開発に取り組んでおり、高い技術を有する5人のガラス造形作家と当社グループで活躍されるクリエイターをつなぎ、2023年3月に伊勢丹新宿本店本館5階リビングフロアで発表する予定です。
当初は、当社グループが多くのお客さまから共感を得てきたコラボレーション企画を提案しましたが、市やガラス造形作家の方々からの理解は得られませんでした。コラボレーション企画は、お客さまの潜在的なニーズからの仮説であり、定量・定性データを用いて科学するものです。商品開発はプロダクトアウトではなく、カスタマーインの考え方が最も重要であることの対話を重ねました。そして、一過性の話題づくりのプロモーションではなく、イノベーションの機会創出と同時に、商品開発におけるマインド醸成であることを丁寧に説明することでご理解いただけました。お客さま一人一人の豊かさを生涯にわたって共創してくことが、〈CLASS GLASS〉のブランドのコアになれば、持続可能な地域ブランドとして自走していけると信じています。
飯島:
当社グループらしいブランディングの考え方ですね。地域の方々と直接意見を交わさなくては、成し得ないことだと思います。
関:
ブランディングとは、ブランドを形づくることだと思われることが多いですが、山陽小野田市でのお披露目会を通じて、地域産業のブランディングは、「地域の人の暮らしに幸せを与えること」が一番重要であると感じました。それは、当社グループの「お客さまの暮らしを豊かにする」という考え方と軌を一にしていると思うのです。
関:
先ほど、地域によって課題が異なるというお話がありましたが、地域のブランディングも地域特性によって異なる方法で行う必要があります。
法人外商グループでは、今後も地域ブランディングに取り組んでいきたいと考えています。あたらしいものをつくり出すのではなく、当社グループらしいクリエイションと編集により、昔から地域に根づく「地域資源」の価値を高め、地産地消を促進する。場や店舗にとらわれず、高感度上質な提案をしていきたいと思います。 当社グループが目指す「まち化」に向けて、地域と密に連携する必要があると感じています。私たちは、地域の実態把握の一端を担い、個と個、企業と企業、店舗と店舗を一つに結び、地域の皆さまと、持続可能な社会に向けて、取り組んでいきたいと思っています。
飯島:
そうですね。ワンデイワークは一子会社ですが、「まち化」に向けてグループの力を結集していくことが重要だと思います。当社グループは、地域に店舗を持っていますから、地域で生まれ育ってきた従業員と情報交換ができるのは当社グループの強みといえます。
ワンデイワークでは、今回の東北での事業経験を活かし、全国にサービスを広げていきたいと考えています。先ほど申し上げたように、地域によって異なる課題があります。最近は四国地方の情報収集をしていますが、働く環境や地域の方々の意識も首都圏や東北とは違います。「地方」を一くくりするのではなく、「地域」それぞれが発展できるように、寄り添っていきたいと思います。