(株)三越伊勢丹
営業本部 オンラインストアグループ
デジタル事業運営部 アイムグリーン担当
大塚 信二
(株)三越伊勢丹
営業本部 第1MDグループ
グループMD部 計画担当
三﨑 晴菜
三﨑:
私は現在、食品やギフトなどを管轄するグループで計画担当をしています。食品では、かねてから食品ロス削減に向けたキャンペーンを実施するなど、サステナビリティに関する取り組みを進めていましたが、一過性の取り組みが多く、継続することの難しさを感じていました。そんな折に、とあるフードテックシンポジウムに参加したところ、IT企業がデータを活用してフードロス削減に取り組んでいると聞き、当社でも応用できないかと考えました。
実は、三越日本橋本店では、20年ほど前から食品廃棄量を計測し、可視化する取り組みを実施していました。2021年度からは、計測データを活用して、無駄な仕入れを抑制し、根本から廃棄量を抑制できないかと考え、廃棄物計量器を活用した減量化の取り組み (「循環型社会に向けて」)を実施しています。
大塚:
百貨店では、食品廃棄量の減量は長年の課題ですよね。
三﨑:
仰るとおりです。着実に減量するために、廃棄量と売上の相関を分析しています。例えば、売上が悪く、廃棄量が多いショップは品揃えに問題があるのではないか、売上が良く、廃棄量が減っているショップは好事例になる取り組みをしているのではないか、など仮説を立てて検証しています。賞味・消費期限がある食品の場合は、一度仕入れたら、売るか、捨てるかの二択になります。分析を進めていく過程で、各ショップの仕入れ量からコントロールすることが重要だと気付きました。最近では、お客さまの消費動向の変化を各ショップへお伝えし、適切な仕入れをしていただくように働きかけています。
大塚:
我々は、モノづくりを中心に行っている企業ではないので、資源循環や廃棄物抑制に貢献するのは難しいと思われがちですが、仕入れと消費動向と廃棄量のデータを持つ小売業の強みを活かして取り組まれたのですね。発想を変えることで、難しいと思われていた取り組みを進めるきっかけづくりになりましたね。
大塚:
私は、入社以来婦人服を担当していました。食品は、購入後に食べる、捨てるの大きく二択になりますが、服は使い続ける、お直し・リメイク、売る、寄付する、捨てるなど、さまざまな選択肢があります。しかし、我々百貨店は、商品がお客さまの手に渡った後に、どのような道を辿るのかを知る方法がありませんでした。
2018年に婦人服のマネージャーをしていた頃、お客さまから、使わなくなった物を整理するために信頼できる買取業者を紹介してほしいとご要望いただきました。調べたところ、古物営業法では、お客さまの個人情報や買取情報などは、買取を行った業者で管理されることがわかりました。ご紹介が難しいことをお客さまにお伝えすると、「三越伊勢丹にやってほしい」と言っていただいたのです。そこから、社内で検討し、2020年10月に開始したのが「i’m green」(「循環型社会に向けて」)です。
三﨑:
お客さまからのご要望がスタートのきっかけだったのですね。お客さまや社内からの反応はいかがでしたか。
大塚:
正直なところ、社内からは賛否さまざまな反応がありました。当初はオンラインでのサービスを検討しており、お客さまの反応がわからないなかで、投資をすることは難しいという意見が多くありました。
そこで、お客さまの声を直接お聞きするために、三越日本橋本店で対面カウンターを設置し、半年間の検証を行いました。大々的な訴求は一切せず、一部のお客さまのみにお知らせしたのですが、予想以上の反響がありました。お持ち込みいただいたお客さまの多くは、ご自身の持ち物をとても大切にされており、信頼できる三越だから託すことができると直接仰っていただいたのです。その結果から対面式のサービスに大きく舵を切り、現在のi’m greenの形態に至りました。
大塚:
i’m greenでは、環境循環と経済循環を両輪で回すことが重要だと考えています。環境循環というのは、物を捨てずにリユースするということ。経済循環というのは、買取の流れで利益を上げることと、買取を行ったお客さまに新品購入を促すこと。これは、環境循環を持続可能なものにするために重要なのです。
i’m greenは、初年度に単体で営業黒字化を達成し、社内外で理解と共感の輪が広がっていることを感じています。また、伊勢丹新宿本店を例に挙げると、買取の際にお客さまへ返金した95%が当日内に店内の購買へ還流しており、文字どおり経済循環の仕組みが構築できました。
三﨑:
経済貢献と環境貢献の両立は、当社が古くから大切にしてきた「共存共栄」の考え方(「三越伊勢丹グループの根本精神」)に一致しますね。
実は、食品の廃棄量計測の取り組みに対しても、社内から利益につながらないのではないかといった声がありました。たしかに、廃棄量が減るだけでは、営業利益へのインパクト(影響)を示しづらいのですが、仕入れが減り、売上が保てれば営業利益が上がるので、そのデータを可視化することを目標にしています。食品ロス削減については、お客さまからの関心が高い問題です(「価値創造プロセス」)。そして、お取組先も少ない仕入れでこれまでの売上を維持、向上させることができれば、「三方よし」の状態になるのです。
大塚:
食品でも、経済と環境が両輪で循環している状態を目指しているということですね。たしかに、その両立ができることで、社内だけでなく、お客さまをはじめとする多くのステークホルダーの共感を得て、継続した取り組みへとつなげることができると感じますね。
三﨑:
成長著しいi’m greenですが、今後の展望を教えてください。
大塚:
現在は、三越日本橋本店と伊勢丹新宿本店のみでサービスを提供していますが、全国の各店舗でご利用いただけるような仕組みを構築したいと思っています。環境に良いことだからこそ、場所や期間を限定せず、サービスを常態化することを目標にしています。また、各店の外商担当者などが、買取のノウハウを身につけることができれば、お客さまへの提案の幅を広げることができ、新しい販売のスタイルも確立できると思っています。
三﨑:
サステナビリティはキャンペーンではないということに深く共感します。
食品では、日頃の営業を稼働させながら、お客さまにより多くの選択肢を提供したいと思っています。小売というお客さまに近くで接していることを強みにして、お客さまと一緒に取り組み、日本の消費行動に小さくても確かな変化を生み出していきたいですね。